海外研修
平成30年度 社会福祉施設経営管理者海外研修・調査
海外研修報告
研修期間:2018.9.4~9.14
研修先:イタリア・フィンランド
報告者:石川療育センター K.N
Ⅰ はじめに
この度、世界的な福祉先進国の一つであるフィンランドと、EU主要国の1つであるイ
タリアへの海外研修・調査に参加する機会をいただいた。各国最新の福祉の動向、現場の
状況を学ぶことで、閉塞感が強まってきている日々の業務を新しい視点、違った角度から
見直すことができるようになること期待をしつつ、迫りくる台風から逃げるように日本を
出発した。
Ⅱ イタリアでの研修
1. ロンバルディア州保健局
日本では、介護と医療は切り離された分野となっているが、ロンバルディア州では、介護
が医療の中に含まれているようであった。持病を持つ人の医療費は無償であり、介護に係る
費用も大半の人は無償であった。近年、持病を持つ人の割合が増え、高齢化が進んできてい
ることで、財政が圧迫している事情は日本と同じであり、その対策として「予防」に力点を
おいた政策を展開していること、また、家庭での自立した生活を目指し、在宅での支援に力
を入れているも日本とよく似ていると感じた。
木工の作品 |
2. フォンダツィオーネ・インスティトゥート・サクラ・ファミリア
広大な敷地の中にたくさんの建物があり、児童から高齢者まで様々な年齢の利用者の方が入
所されていた。身体障害者の施設とのことであったが、知的障害を持つ方や重い重複障害を持
つ重症心身障害者の方も含まれており、日本ほど障害の種別が明確ではないように感じた。通
所の活動も展開しており両方の機能を持つ施設はイタリアでは珍しいとのことであった。州の
施策として、介護(障害福祉)が医療の分野に含 まれていることと関係しているのか、日
中の活動は通所の活動も含めて主に「治療(リハビリ)」の視点で行われており、陶芸や絵画、
木工などの芸術・製作活動も「治療」の一環として行われていた。「社会参加のための労働」
という視点は薄いようであった。
居室はどこも個室で、部屋にシャワーやトイレが備え付けられており、恵まれた環境である
と感じた。しかし、児童の入所する建物の窓には鉄格子がはめられており、ベッドからの転落
防止の目的で抑制シーツが用いられるなど「拘束」に対する意識は日本の方が進んでいるよう
に感じた。ここで働く職員の4割(約1200人)はボランティアとのことであった。イタリアは
ボランティア文化が進んでおり、バックボーンにキリスト教会の存在があるとはいえ、驚くべ
き数である。
飾られている楽器 |
3. カーサ・ヴェルディ
この施設は世界中の音楽関係者の豊かな老後を保障するためにヴェルディ氏が私財を投じて設立
した施設である。まずは、そのコンセプトに感銘を受けた。見学の間も絶え間なく聞こえてくるピ
アノの音。私たちのために利用者の方が演奏してくれた曲。まるで調度品のように置かれていた数々
の楽器。滞在したのは短い時間であったが、優雅な気分に浸ることが出来た。このような環境の中
で生活できる利用者の方がうらやましい限りである。
4. スクオラ・モンテッソーリ保育所
体積の学習教具 |
在所するのが3歳から11歳までということで、保育所と学校の両方の機能を持つ施設であった。
モンテッソーリのメソッドに基づき、「発見学習」を重視しながら、一人ひとりの発達段階や能力
に応じた異年齢によるグループ学習が展開されているとのことであったが、並んでいる教具は日本
の小学校の高学年の学習に匹敵するようなものが多く、かなり高度な教育が実施されていることが
想像できた。公立保育所であったが、イタリアの保育所のスタンダードではなくかなり個性的な保
育所なのではないかと感じた。
Ⅲ フィンランドでの研修
1. ヴァンター市社会福祉課(アルミニーテュ施設)
行政説明だけでなく、施設の見学も含めた研修となった。行政説明では「自立して自宅で人生を
過ごしてもらう」ことをスローガンに在宅支援を中心に据えた取り組みを進めており、「100個の
ことを100人から」の言葉が表すように、一人ひとりを大切にしてその人なりの人生を楽しんでも
らえるような支援を実施しているとのことであった。
自宅のような居室 |
この方針のもと、高齢者の入所施設利用は最重度の人のみで、平均利用期間が1.5年程度というのに
は驚かされた。また、ケアプランや個別支援計画は単にサービスの内容を明示した物ではなく「人生
プラン」という考え方に立ち、プランの作成にあたっては、その人の生きてきた履歴をすべて含んだ
「人生がわかる情報」を収集したうえでプランを作成するとのことであった。大切な理念であると感
じた。
施設の方は高齢者の入所施設と障害者の通所施 設の複合施設でフィンランドでも珍しいスタイ
ルとのことであった。障害者に対してボランティアの形で施設の掃除、洗濯、配膳などの業務を委託
しており、ここで社会性を身に着けた利用者が一般就労できるようにするという就労支援施設の役割
も兼ねていた。居室はすべて個室、シャワートイレ付。(これは当たり前のことのようである)鏡台
等の個人のインテリア、壁掛けの絵画などが持ち込まれており「自分の家」の雰囲気が作られていた。
日中活動としてアクティビティ等の外に出て何かをすることを大切にしており、ボランティアや家族
の力を借りながら実施しているとのことであった。
虫歯予防のキシリトール |
2. ケヴァットトゥーリ
フィンランドでは保育所は遊びが中心で知育はあまり行われない実情があるため、小学校との格差
をうめる「プレスクール」が設置され小学校へ上がる前の1年間をそこで過ごしている。今回は保育
園だけでなく、プレスクールも見せていただくことが出来た。保育園では1クラスで2つの部屋を使い、
1~3歳児のクラスで12名の園児を3名の保育士でみているとのこと。日本に比べてかなり手厚い職員
配置となっている。広いスペースの中、ゆったりとした教育が行われている様子が伺われた。食堂の
テーブルの上に虫歯予防のためのキシリトールのタブレットが置かれていたのが印象的であった。
プレスクールは最新の設備が備わっており、整った環境の中、子供たちは見学者を気にすることなく
元気に飛び回っていた。ちなみに、学校教育は大学院まですべて無償!さすがは福祉国家である。
集合住宅の外観 |
3. ヴァリディア・ヤトカサーリ
一般の集合住宅の一部を借り上げバリアフリーに改装、そこに居住する身体障害に対して、様々
なサービスを提供するスタイルの施設。基本的な生活が自立していることが利用の条件となる。サービ
ス付高齢者住宅と似ているが、建物の附属設備やサービス(日曜大工の部屋、音楽の部屋、食堂、サウ
ナ等)を一般の住人と一緒に使用する点が特徴的であった。フィンランドでも先進的な施設であり、今
後は知的障害者を対象とした同様の事業にも取り組んでいく予定とのことであった。
ハイテク機器 |
4. カウクラハティ・シニアセンター
ハイテク技術が満載の施設であった。各利用者は手首にGPS機能のついた時計のような機器をつ
け、それによって24時間バイタル情報を把握、記録されていた。居室の床にはセンサーがあり離床や転倒
した場合にはすぐにわかるシステムが導入もされていた。トレーニング室にはコンピュータにより個人情
報を管理できるシステム付のトレーニングマシンも設置されていた。
居室を自分の家としてとらえる考え方はこの施設も共通であった。また、平均入所期間2.5~3年だが、
もっと減らしたいとのことであった。あくまでも入所は最終段階の処置であり、できる限り在宅で支援し
ようする基本姿勢が徹底されていると感じた。
Ⅳ おわりに
研修を終え、一人ひとりが、自分の家で、自分の力で生活できるよう様々な工夫がなされている実態を
見て、改めて「在宅中心」に「個の自立」を支援することが福祉の本流になっていると実感することが出
来た。国が違い、政策や制度が違っても、そこに生きる障害者や高齢者、子供たちの笑顔と、その方たち
のために生きがいをもって働く方の笑顔は万国共通。笑顔の持つエネルギーはやはり偉大であると感じた。
最後に、このような貴重な機会をいただき大変有意義な経験ができたことに、関係者の皆様へ心よりの感
謝を申し上げたい。